
動画ではなく「チャンネル」を伸ばす 〜視聴者があなたのチャンネルを見続ける理由の作り方〜

はじめに:一本の「傑作」が、チャンネルを殺すこともある

【中級編】をマスターしたあなたは、一本一本の動画をヒットさせるための、強力な科学的アプローチを手に入れました。データから仮説を立て、CTRとAVDを最大化し、アルゴリズムに好かれる動画を作る。その技術は、あなたのチャンネルを確かに成長させてくれるはずです。
しかし、ここに一つの残酷な罠があります。
一本の「バズ動画」に頼ったチャンネルは、いずれ必ず失速する、という事実です。
「メイク動画がたまたまバズったから、明日からはペットの動画をあげてみよう」
「ゲーム実況が当たったから、次は料理動画に挑戦しよう」
これは、チャンネルという名の船が「沈没」に向かう、最も典型的なパターンです。
なぜなら、バズった動画を見て集まってきた視聴者は、あなたの「チャンネル」に興味を持ったのではなく、たまたまその一本の「動画」に興味を持ったに過ぎないからです。彼らは、次の動画が全く違うテーマであれば、何の躊躇もなく去っていきます。
【上級編】で私たちが目指すのは、もはや一本一本の動画のヒットではありません。
視聴者に「このチャンネルの次の動画が、待ちきれない!」と思わせる、抗いがたい魅力を持った「チャンネル」そのものを創り上げることです。
それは、偶然のヒットに依存する博打のような航海から、熱狂的なファンという名の追い風を受け、安定して進み続ける、王者の航海への転換を意味します。
なぜ「チャンネル登録」は、もはや意味をなさないのか?

かつて、チャンネル登録者数は成功の絶対的な指標でした。しかし、時代は変わりました。
アルゴリズムの推薦精度が飛躍的に向上した今、視聴者は必ずしも登録しているチャンネルの動画を見るわけではありません。ホーム画面に流れてきた「面白そうな動画」を、ただ受動的に消費していく。それが現代の視聴スタイルです。
あなたも経験がありませんか?
何十、何百とチャンネル登録しているのに、実際に毎日見るチャンネルはほんの数個。残りの9割のチャンネルは、登録していることさえ忘れてしまっている…。
つまり、視聴者にとって「チャンネル登録ボタン」は、かつてのような「ファンです!」という熱烈な意思表示ではなく、「また見たいかも」程度の、ブックマーク(しおり)のような軽い意味合いに成り下がっているのです。
この現実を直視せず、ただ登録者数を増やすことだけを目標にしていては、実態のない「幽霊船」のようなチャンネルが出来上がるだけです。
私たちが本当に目指すべき「チャンネル・ブランド」という概念

では、登録者数に代わる、真の成功指標とは何でしょうか。
それが「チャンネル・ブランド」の確立です。
ブランドとは、一言で言えば「約束」です。
「このチャンネルを見れば、必ず〇〇という価値を提供してくれる」という、視聴者との暗黙の約束。
- HIKAKIN:約束 → 「日常を、最高に面白いエンタメに変えてくれる」
- 中田敦彦のYouTube大学:約束 → 「どんな難しいテーマも、世界一分かりやすく教えてくれる」
- THE FIRST TAKE:約束 → 「アーティストの、一発録りの本物の歌声が聴ける」
この「約束」が強固であればあるほど、視聴者はアルゴリズムの気まぐれな推薦に頼らず、自らの意思で、能動的にあなたのチャンネルを探し、訪れるようになります。
「〇〇について知りたければ、あのチャンネルを見よう」
「疲れたから、あのチャンネルを見て癒されよう」
この状態に至って初めて、あなたのチャンネルは単なる動画置き場から、視聴者の生活に欠かせない、代替不可能な「ブランド」へと昇華するのです。
あなたの「約束」を見つけるための3つの質問

では、どうすれば、あなたのチャンネルだけの強固な「約束」を見つけられるのでしょうか。それは、以下の3つの質問に、あなた自身の言葉で答えることから始まります。
質問1:「誰に(Who)」届けたいのか?
「20代の女性」「ゲームが好きな男性」といった、漠然としたターゲット設定では弱すぎます。もっと深く、彼らの価値観や悩みにまで踏み込んでください。
(例:「仕事と子育てに追われ、自分の時間がない30代の主婦」「最新のガジェットは好きだが、専門用語は苦手な40代の会社員」)
ターゲットが鋭くなればなるほど、メッセージは深く突き刺さります。
質問2:「何を(What)」提供するのか?
あなたのチャンネルが提供する、中核的な価値(約束)を、一言で言語化します。
(例:「たった5分で、明日使える心理学の知識を提供する」「どんなズボラな人でも真似できる、時短節約レシピを提供する」)
これは、あなたのチャンネルの「憲法」です。今後、すべての企画は、この憲法に違反していないか、常に問われることになります。
質問3:「なぜ、あなたでなければならないのか(Why)」
同じテーマを扱う競合チャンネルは、星の数ほど存在します。その中で、なぜ視聴者は、他の誰でもなく、あなたのチャンネルを見る必要があるのでしょうか。
あなたの「独自性」の源泉はどこにありますか?
- 専門性:特定の分野で、誰にも負けない知識や経験があるか?
- キャラクター:あなたの個性、人柄、喋り方、ユーモアのセンスは?
- 視点・切り口:他の人が気づかない、独自の視点で物事を語れるか?
- コミュニティ:あなたのチャンネルに集まる視聴者同士の、温かい繋がりがあるか?
この「Why」こそが、あなたのチャンネルを、単なる情報提供者から、愛される「ブランド」へと変える、最も重要な要素です。
まとめ:あなたはもう「国の建国者」である

【中級編】までのあなたは、腕利きの「職人」でした。一本一本の優れた動画(製品)を作ることに心血を注いできました。
しかし、今日からあなたは、一つの「国」を創る「建国者」です。
- どのような国民(ターゲット視聴者)を招き入れるのか?
- どのような憲法(チャンネルの約束)を掲げるのか?
- そして、他の国にはない、どのような文化(独自性)を育んでいくのか?
この壮大な設計図を描くことこそが、ストラテジスト(戦略家)としてのあなたの最初の仕事です。
この設計図なくして作られた動画は、どれだけ単体で優れていても、国全体の発展には繋がりません。むしろ、国のアイデンティティを混乱させ、国民を困惑させるだけです。
次回の講義では、この建国プランをさらに具体化していきます。競合という名の国々がひしめく世界地図の中で、あなたの国が生き残り、繁栄するための、「レッドオーシャンで勝ち抜くためのポジショニング戦略」について解説します。
編集後記
検索して1万~数10万再生の動画を見たことはあるでしょうが、そのチャンネル自体を見に行ったことはありますか?実はそのバズってる動画以外は、驚くほど再生数が低いなんてこともあるんです。冒頭で語られているのはまさにこのことですね。
そして、ここからが面白いところです。
YoutubeコンサルタントやYoutube運用代行会社の方に何社かお話をお伺いさせて頂いたことがあるのですが、「チャンネルブランド」まではどうも考えていないようなんです。
インプレッション数の話やクリック率(CRT)の話、サムネやタイトルの話は出てくるのですが、「チャンネル・ブランドの確立」は一切出てこないのです。
それよりもインプレッション数、クリック率(CRT)を回して目先の収益を上げることのみ一心不乱にやってるように見受けられます。
もちろん、これはこれで悪いわけではないのですが、自転車操業に陥りがちです。
しかもこれが担当1人しか居なかったら、担当が倒れたらどうするんだろうという属人化問題に繋がります。クライアントには見せない姿でしょうし、トレードオフの結果かもしれませんが、これだと結果的にチャンネル運営が止まってしまいかねないので、チームでやってるのか担当1人だけなのかを明確にしておいた方がよろしいかと思います。
人を使い潰そうとしているような体制ですと、人も逃げちゃう可能性もあるわけなので、やはりそうなってもチャンネル運営は止まってしまいます。
そして、この「チャンネル・ブランドの確立」とは何のことを指しているのかと言うと、チャンネルの方向性のことなんです。コメントで賑わうコミュニティの繁栄と管理、そしてその先にチャンネルメンバーシップが加わります。Youtubeも2020年ぐらいからだったと思いますが、チャンネルメンバーシップ推しが多くなっており、Youtubeクリエイターコミュニティなどでもかなり力が入っている施策なんです。取り合えずでもいいので、こちらの方向にも舵を切れるように検討する方が無難だと思われます。
ただ、相反してるんですけど、インプレッション数、クリック率(CRT)だけを追っているということは、店舗を持たず祭りの露店のような形で一見さんに物を売っているのと同じ状態になるので、常連も一見さんも来てくれる「チャンネル・ブランドの確立」した上で、常連さん相手にも動画を作っていくことにも目を向けないと、いずれ飽きられてしまう可能性も捨てきれないという事になるわけです。
3つの質問に関しては、視聴者のペルソナ設定ですね。
一体どういう人が自分の動画を見ているのか、そのターゲット層をより深く想定した上でそこに狙いを絞って狙い撃ちしていくイメージでしょうか。
質問3に関しては別の問題も孕んでくるんですが、それはまた別の機会にお話ししましょう。
面倒くさいことを私も色々経験しております。













